★2022年7-9月
「チェリー・イングラム」が残した桜の伝統は、英国内で確実に根を張り、発展し続けています。
英国東部のサフォーク州で、この夏「サフォークの桜」イベントが開かれました。
イベントは桜の絵画展と、桜を利用して創ったシルクのスカーフの作品展で、会場はサフォーク州グレート・グレナムの農場「ホワイトハウス・ファーム」です。
企画したのはホワイトハウス・ファームの農場主、ジェイソン・ゲイソーン=ハーディさん。ジェイソンさんは、英国貴族の5代目クランブルック伯爵の長男で、6代目伯爵になる人です。彼は桜の愛好家として、10数年前から農場に約60本の桜を植樹してきました。
実は、5代前の初代クランブルック伯爵は、ケント州ベネンドン村で「チェリー・イングラム」ことコリングウッド・イングラムの旧邸宅「ザ・グレンジ」を19世末に最初に建てた人です。イングラムは1919年にこの家に入居し、伯爵が庭に植樹したとみられる2本の桜の木の美しさに魅了されて、桜の専門家になることを決意したのです。
クランブルック家は3代目伯爵の時にサフォーク州に移住して、現在にいたっています。ジェイソンさんは、2019年春に出版された阿部菜穂子著「チェリー・イングラム」英語版を読んでクランブルック家とイングラム、さらに桜とのつながりを知り、そのつながりを知らずに、自身が長年、桜を植樹してきたことの不思議さ、縁に感動して阿部菜穂子に連絡をとりました。ジェイソンさんはその後、桜だけでなく、日本文化のファンとなられ、この夏に「日本」をテーマにして桜イベントを開催したというわけです。
桜の絵画展は、地元サフォーク州在住の画家、エマ・グリーンさんがこの数年、ジェイソンさんの農場の桜を次々に描いてきた作品を展示したもの。シルクのスカーフ展は、やはり地元の染色家、ジェニー・ナットビームさんが、農場の桜の葉や花を利用してシルク布地を染め、創作したものです。
展示会がオープンした7月8日にはロンドン在住で世界的に活躍している和太鼓奏者、廣田丈自さんと若手奏者4人がサフォーク入りして和太鼓の演奏会を開きました。演奏会は満員御礼で早い時期にチケットを完売。大変な評判を呼びました。オープニングにはロンドンの日本大使館から伊藤毅公使(文化担当)が駆けつけてくださいました。